すまいみらい研究所 DNP

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ホーム みんなで考えるみらいのすまい 東京大学千葉研究室 共同研究 第2回 ミーティング

田中誠一(DNPすまいみらい研究所)
千葉学、成瀬友梨、海法圭、落合瞳子、千葉学研究室所属の学生の皆さん(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室)
プロデューサー:安東孝一(アンドーギャラリー)
ゲスト:久永一郎、鈴木守(大日本印刷C&I事業部)

梅雨の中休みの晴れ間が広がった6月15日、DNPすまいみらい研究所と東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室の、「建具」をテーマとした共同研究第2回ミーティングが、東京大学本郷キャンパスで行われました。

ミーティングの冒頭に、千葉学教授から前回のミーティング後、当日までに研究室内で行われた議論や作業について、簡単にご説明いただきました。

──前回のミーティングのあと、類型化や定義づけの作業を一旦中断し、学生それぞれが見つけてリサーチしてきた建具をもとに、新たな建具をデザインする作業をやってみることになりました。実際に建具を提案することを通じ、自身で興味をもった建具の魅力や可能性がもっと理解できるのではないか、という主旨での作業です。(千葉学教授)

バリエーションに富んだ視点のひろがり

千葉教授による主旨説明のあと、壁に掲示された資料を巡回するかたちで行われた発表とディスカッションでは、学生1名につき1件から3件のデザインを提案。学生からはそれぞれ独自性をもった視点があらゆる角度から提示され、議論のベースとなりました。

建築家の青木淳氏※1による住宅作品「m」(2012年/東京)をヒントとしてデザインされた建具は、ひとつの機能だけを備えた建具を、幾重にも重ね合わせて場所を包み込む提案。提案の段階では大きいものから小さいものへ、「何を通して、何を通さないか」という機能を設定していましたが、この提案をきっかけに重ねる順番を変えることで何が変化するのか、あるいは地域特性によって順番がどのように変わるのか、といった議論や、レイヤの間を利用すると新しい場が生まれるのではないか、といったような議論が生まれました。
一般的な建具、特に日本では網戸で虫の侵入を防いだり、雨戸で光や風雨を防いだり、ガラスに紫外線をカットするフィルムを貼るなど、窓枠の中に数多くの機能を詰め込んでいます。それらを解体することにより、生活者のライフスタイルに合わせて建具を組み合わせたり、ある機能を省くことも可能になり、住まい方の新しい在り方を予感させてくれる議論となりました。

※1 青木淳(あおき・じゅん)
日本の建築家。1956年神奈川県生まれ。1982年東京大学大学院修了。磯崎新アトリエ勤務後、1991年青木淳計画事務所設立。主な作品に「ルイ・ヴィトン表参道ビル」(2002年)、「青山県立美術館」(2005年)、SIA青山ビル(2008年)など。

格子そのものに興味を抱いた学生からは、格子の角度や密度、奥行きなどを変化させることにより、光や風、視線をコントロールする4種の建具が提案されました。特に議論に上ったのは、格子の奥行きに変化を持たせることで、正対したときと、そうでないときの抜けの変化を利用した建具です。この建具に対して、DNPのメンバーからは2014年の東京デザイナーズウィークに出品された、ストローを積層した壁(出品:多摩美術大学)の事例、そして格子と凹面鏡の原理を応用し、空中に映像を投影する技術(アスカネット社によるAIプレート)の事例など、同様の原理を利用または応用した具体例についての紹介がなされました。また、微細レベルに話題が展開すると、印刷技術で透明なフィルムに偏光特性を与える、DNPのマイクロブラインド技術への言及もあり、単純な機構で場をつくることと、素材の形状や加工の可能性を感じさせました。

「何を通して、何を通さないか」という建具の根本的機能から、もののあり方に視点をおいた提案や、素材や機構に視点をおいた提案など、幅広い発想が生まれてきました。「建具」という建築の部品の奥深さを再認識させてくれる議論が続きます。

軸と素材・数・大きさ

蔀戸(しとみど)と冷蔵庫の両開き扉を参考にした建具は、上下の軸を場面によって使い分ける提案。この提案から、建具の軸についての議論が生まれました。通常は上端を軸として開く蔀戸を下軸とするだけでも、今までにない空間の広がりが想像できますが、さらに議論は「無段階で軸が設定できる建具は可能だろうか」というところにまで及び、そのためにどのような機構や形態が考えられるかについて様々な発想が導かれました。

木を薄くスライスしたランプシェードや、アメリカの建築設計事務所SOM※2が設計した「イェール大学バイネッキ図書館」(1963年)の大理石の薄板を用いた間仕切りからは、素材の厚さについての議論が持ち上がり、鏡を用いた提案に対してはアーティスト、アニッシュ・カプーア氏※3(インド)のインスタレーション作品「Sky Mirror」(2006年/ニューヨーク)や、ノーマン・フォスター氏※4(英国)が設計した「香港上海銀行本店ビル」(1985年/香港)の鏡を用いた採光機構など、建具の枠に収まらない事例が数多く紹介されました。

※2 SOM(Skidmore, Owings & Merrill)
1936年にシカゴで設立された米国の設計事務所。日本では東京ミッドタウンのマスタープランなどを担当した。
※3 アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)
インド・ムンバイ出身の現代彫刻家。1954年生まれ。光の反射や光を吸収する素材などを用い、視覚効果の強い作品を制作する。金沢21世紀美術館に作品「世界の起源」が収蔵。
※4 ノーマン・フォスター(Norman Foster)
英国の建築家。1935年生まれ。主な作品に「センチュリー・タワー」(1991年/東京)、「大英博物館グレートコート」(2000年/ロンドン)、「ロンドン市庁舎」(2002年/ロンドン)など。アップルの新本社ビル「Apple Campus 2」の計画も進行中。

オーストリアのアーティスト、Klemens Torggler氏の発表した扉「Evolution Door」※5(2013年)を参考にした建具については、店舗建築や劇場への展開や、ペット用出入口へ応用する可能性が意見として出されたほか、建具の部品が複数連動して動く機構に着目し、複数の建具や壁が連動することで、新しい空間の仕切り方が獲得できるのではないか、といった意見が出されました。
そのほかに機構に着目した建具では、オランダの建築家Hofman Dujardin氏による可変式増設バルコニー「Bloom Frame」※6を参考に、機構による空間の変化や建具と家具の融合を目指した提案が数点出されました。これらの議論では各部材のサイズや数の変化でどこまで新しい機能が実現できるか、という話題や、留学生の提案からは、開口部の大きさや空間に対する肌感覚の文化的違いに至るまで、話題に上りました。

※5 「Evolution Door」
可動の様子 https://www.youtube.com/watch?v=umfvm8I9_oU
※6 「Bloom Frame」
http://www.bloomframe.nl

そのほか、既存のブラインドの不確実で壊れやすい機構に着目し、同様の機能を二重窓の間に仕込む提案や、パイプ状の部材でフレキシブルなパーティションをつくり、そこに設備的機能を付加する提案もなされ、それぞれ空調設備やタスク・アンビエント※7的な機能をアナログで実現する可能性について、議論が行われました。

※7 タスク・アンビエント
主に照明で用いられる考え方。部屋全体を明るく照らすのではなく、タスク(作業)とアンビエント(周囲環境)に照明を分け、部屋全体の照度は低めに押さえ、必要な部分だけタスク照明として明るくする方式。照明の省エネルギーのほか、照明の放熱の減少で空調効率の向上にもつながる。