すまいみらい研究所 DNP

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ホーム みんなで考えるみらいのすまい 東京大学千葉研究室 共同研究 第3回 ミーティング

田中誠一、大原千佳子、深田晶子(DNPすまいみらい研究所)
千葉学、成瀬友梨、海法圭、千葉学研究室所属の学生の皆さん
(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室)
プロデューサー:安東孝一(アンドーギャラリー)
エディトリアルスーパーバイザー:寺松康裕(建築編集研究所)
ゲスト:近松惠吉、安齋英弘(DNP住空間マテリアル デザイン開発部)
星享(大日本印刷 住空間マテリアル事業部)

関東の梅雨明けから間もない7月21日、DNPすまいみらい研究所と東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室の、「建具」をテーマとした共同研究第3回ミーティングが、東京大学本郷キャンパスで行われました。
今回は新たなゲストとして、DNP住空間マテリアルのデザイン開発部から2名、大日本印刷住空間マテリアル事業部から1名が参加しました。
冒頭、千葉教授からこれまでの流れを踏まえた第3回のテーマについて、お話しがありました。

──場所と場所の関係や家とまちの関係、人と人の関係をつかさどるときに、建具はとても重要な役割をしているのではないかと考えて、第1回は古今東西の建具の事例を網羅するリサーチを、第2回は調べた建具をヒントに新しい建具をデザインしてみようということを、やってきました。
建具を捉える切り口を少し明確にしていった方が、今後の展開にも得るところが大きいと思います。これまで集めてきた事例をどうまとめ直すと、今後の展開にとって示唆的になるのかという観点から、今回はいくつかの指標で建具を類型化し、まとめてみました。それをベースに議論ができればと考えています。(千葉学教授)

さまざまな切り口で建具を分類する

建具はさまざまな指標をもとに類型化されました。「素材と機構」「気候帯」「寸法」「年代と素材」「重さと動かし方」「格子の大きさ」「光の透過と風の透過」とその指標はバラエティ豊かです。それぞれの指標を見ながら、そこから見えてくることについて、ディスカッションが進められました。

まずはいちばん基本となる指標として、「素材と機構」での類型化から話が始まりました。この指標からは素材の使われ方や、組み合わされる素材、組み合わせる数などの傾向が見えてきました。そこから、各素材の使われている理由、加工性や、素材の特徴と機能や趣向性の関係などが考察されました。
「気候帯」の指標では、気候によって建具に与えられた機能に違いがあることが見えてきました。暖かい地域では建具に熱や日射を遮ることや、通風の機能が求められる傾向が見え、逆に寒い地域では機能が組み合わされ、環境を制御する装置として建具が用いられています。この指標には、気候帯ごとのスタンダードな建具の形式や、地域ごとの建具のバリエーション数などが見えてくると面白い、といった意見が出されました。

モダニズム※1建築家の建具から見えてくるもの

「寸法」をテーマとした類型化では、ある問題提起がなされました。

──建具の「寸法」を指標に類型化すると、事例から漏れている建具の存在に気づいたりして、建具のインデックスとして使えると思いました。
そういえばル・コルビュジエ※2やミース・ファン・デル・ローエ※3など、モダニズム初期の時代に活躍した建築家たちの建具が抜け落ちています。とても現代的なものとバナキュラーなものしかない。今まで見てきた事例に偏りがあったのが改めて見えてきます。(千葉学教授)

──今まで見てきた事例は、発想を刺激するという意味では面白いと思いますが、世界の事例という観点だと個性的な特徴を持つ建具がとても多く、一般的な事例はあまりないですね。(DNP近松惠吉氏)

──海外の巨匠たちのほかにも、吉村順三※4や吉田五十八※5など、20世紀の日本の住宅作家たちは、とても凝った建具を数多く生み出していました。そういうものばかりになるのは良くないですが、それらを知った上で進めた方が、より面白くなるように思います。(エディトリアルスーパーバイザー 寺松康裕氏)

ディスカッションは建築家が住宅作品で用いたオリジナルの建具の話から、現状の住宅やマンションにおけるコストダウンと建具の話、外界との境界ではなく、室内で使われる建具の自由さと可能性についてまでひろがっていきました。

※1 モダニズム
20世紀初頭から起こった芸術運動。建築では過去の装飾を用いた様式建築を否定する運動からはじまり、合理的・機能的建築を理想とする近代建築運動へと発展した。
※2 ル・コルビュジエ
(1887~1965)
スイスで生まれ、主にフランスで活躍した建築家。本名はシャルル・エドゥアール・ジャンヌレ。20世紀のモダニズム建築を牽引した建築家のひとり。主な作品に「国立西洋美術館基本設計」(1965年/東京都)、「マルセイユのユニテ・ダビタシオン」(1952年/フランス)、「サヴォア邸」(1931年/フランス)など。著書も多く、『建築をめざして』(1923年)、『輝く都市』(1935年)、『モデュロール1、2』(1948年、55年)など、後の建築界に多大な影響を残した。
※3 ミース・ファン・デル・ローエ
(1886~1969)
ドイツ出身の建築家。ガラスと鉄を多用した作品で知られ、ユニバーサルスペースという概念を提示した。ドイツの造形学校「バウハウス」の3代目校長も務めた。ナチスを逃れ、アメリカに亡命する。主な作品に「トゥーゲントハット邸」(1930年/チェコ)「ファンズワース邸」(1951年/アメリカ)、「レイクショアドライブ・アパートメント」(1951年/アメリカ)など。
※4 吉村順三
(1908~1997)
東京都出身の建築家。東京美術学校(現東京藝術大学)で建築を学び、卒業後はアントニン・レーモンドに師事する。1941年、吉村順三設計事務所を開設、東京藝術大学教授も務めた。主な作品に「愛知県立芸術大学」(1966~71年/愛知県)、「軽井沢の山荘」(1962年/長野県)、「俵屋」(1965年/京都市)、「奈良国立博物館新館」(1972年/奈良県)などがある。
※5 吉田五十八
(1894~1974)
東京都出身の建築家。東京美術学校卒。和風の意匠である数寄屋建築を独自に近代化した。主な作品「小林古径邸」(1934年/東京・現在は新潟県上越市に移築)、「杵屋六左衛衛門別邸」(1936年/静岡県)、「五島美術館」(1960年/東京都)、「新喜楽」(1962年/東京都)など。

規格化のはじまり

つづく指標は「年代と素材」。
年代という切り口からも、先ほどの「寸法」同様、建築家の建具を事例として考える必要性が提起されました。
フランク・ロイド・ライト※6の住宅で建具が果たした役割や、日本の数寄屋建築※7における指物師※8の高度な仕事など、これまでのリサーチでは見落とされてきた事例が紹介されました。
議論は建具の規格化や標準化というテーマにおよび、DNPの近松氏やエディトリアルスーパーバイザーの寺松氏からは、日本の住宅の大きな転換点が1980年前後であるとの見解が示されました。それはプレファブ化の普及で、ハウスメーカーがコストの観点から建具の数を減らしていった時代であり、高度な手仕事の技術が住宅に使われなくなた時代であり、住宅にある「性能」が要求されるようになった時代の幕開けでもありました。
個々人が欲しいものに、住宅や道具が個別に対応していた時代が終わり、平均点の高い「性能」を持つプロダクトとして、住宅や建具が供給されるようになると、手仕事の入り込む隙はとても狭くなるという指摘も出ました。
一方、DNPすまいみらい研究所の田中誠一所長からは、時代ごとにまとめるときは一般的な建具の流れと、新しい試みを並行して見ることもアイデアとしてあげられました。

そのほかの指標でも色々な可能性が提起されました。「重さと動かしやすさ」というテーマでは、「重さを持った建具」の可能性についての議論が起こり、「格子の大きさ」という指標では、実物大模型の提示とともに、建具の見込み部分の積極利用という提案がなされました。

※6 フランク・ロイド・ライト
(1867~1959)
アメリカの建築家。前述のコルビュジエ、ミースとともに「近代建築の三大巨匠」と呼ばれる。主な作品に「カウフマン邸(落水荘)」(1936年/アメリカ)、「グッゲンハイム美術館」(1959年/アメリカ)、「旧帝国ホテル本館」(1923年/東京都・現在は明治村に一部移築)、「山邑邸」(1924年/兵庫県)など
※7 数寄屋建築
日本の建築様式である数寄屋造りを用いた建築物のこと。数寄屋とは茶室の特徴を取り入れた住宅の様式で、起源は安土桃山時代にさかのぼる。当時の主流であった書院造りの、格式や装飾を否定したところからできてきたもの。
※8 指物師
釘などの接合道具を使わずに、高い木工技術を用いて家具や建具などを制作する職人を指す。