すまいみらい研究所 DNP

  • LINEで送る
 

ホーム みんなで考えるみらいのすまい 東京大学千葉研究室 共同研究 第4回 ミーティング

田中誠一、大原千佳子、深田晶子(DNPすまいみらい研究所)
千葉学、成瀬友梨、海法圭、落合瞳子、千葉学研究室所属の学生の皆さん
(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室)
プロデューサー:安東孝一(アンドーギャラリー)
エディトリアルスーパーバイザー:寺松康裕(建築編集研究所)
ゲスト:近松惠吉、安齋英弘(DNP住空間マテリアル デザイン開発部)
星享(大日本印刷 住空間マテリアル事業部)

トレンドをデザインに取り入れる

近松氏のレクチャーにつづき、同デザイン開発部の安齋英弘氏より、「生活者視点での情報収集と開発」をテーマに、具体的な開発プロセスについてレクチャーが行われました。
今現在、どのようなライフスタイルやファッションがトレンドとなっているか、あるいはこれからトレンドになりそうか、ということを調査・研究し、製品に落とし込むまでのプロセスがパネルとともに紹介されました。
「シャビーシック」※2や「トロンプ・ルイユ」※3というスタイルを用いた壁紙の実物を紹介しながら、調査の方法や着想、制作プロセスや知財・権利の扱い方まで、具体的にレクチャーされ、生活者の選択の幅が広がった現代において、スタイルの提案がどのような視点で行われているかが語られました。

※2 シャビーシック
1989年にイギリス人デザイナーのレイチェル・アシュウェル氏がオープンした、同名のライフスタイルショップから始まったファッションやインテリアのスタイル。使い古された中にある品や味わい、上品さや優雅さに魅力を見いだしたもの。
※3 トロンプ・ルイユ
騙し絵を意味する言葉。ファッションの分野ではポケットやリボンをプリントし、本物のように見せかけることで遊び心を表現することを指す場合が多い。そのほかにも舞台美術での利用や、敷地や部屋を広く見せるための仕掛けに使われるなど、歴史は古い。

──賃貸住宅でもお仕着せのインテリアではなく、入居者が壁紙を選べる例などが出てきていて、今はまさに「選択の時代」です。壁紙においても消費者・生活者が自分にあったものを選ぶ時代になってきています。
消費者の皆さんには、ファッションのように壁紙やインテリアを選ぶという傾向が想像以上にあると思います。それを踏まえ、情報収集と開発を進めています。(DNP安齋英弘氏)

レクチャー終了後、学生からはいろいろな感想が出されました。(一部抜粋)

──ストーリーというお話に特に興味を惹かれました。これからの共同研究でも、建具というものに集中するだけでなく、社会の中でのストーリー性にも目を向けたいと思います。

──建築をやっていると、トレンドとかファッションとかいう部分はあえて避けている部分もありましたが、そこを押さえることも大切だと感じました。

──例えば「シャビーシック」という柄があって、それを印刷で再現する表層性と、それとは別に素材性を大切にした方向性と、両方を考えるのが大切だと思いました。

また、千葉教授からは次のような感想が出されました。

──ジーンズのことを考えながら、お話を聞いていました。
労働着だったジーンズがファッションとして認知されたのが1950年代。それがライフスタイルまで変え、80年代ぐらいにブリーチやダメージなど、ジーンズが経年変化すること自体がファッションとして見なされる、ということが生まれました。一方で、いちばん最初につくられたモデルのジーンズが好きで、それを買い続けている人たちもいるわけです。
インテリアの世界でも時代のスタイルや地域の様式のようなものが、すべてフラットな状態で選択可能な時代になったのだと思います。そういう中で、ジーンズにおけるダメージ加工やブリーチ加工みたいな「こと」を生み出すのか、それともデニムそのもののような「もの」を生み出すのか、どちらを目指すのが良いのだろうか、そういうことを考えていました。(千葉学教授)

これを受け、DNPの近松氏やプロデューサーの安東氏からは、共同研究そのものの方向性を見据えた意見が出されました。

──以前はマテリアル単品で発想されていたものが、現代では空間そのものを考える中で、そこに使うマテリアルがどうあるべきか、という発想に変わってきていると思います。そのあたりをご提案していただければと思います。(DNP近松惠吉氏)

──先日、アンドーギャラリーでつくった「ANDO’S GLASS」が、日本のグッドデザイン賞で金賞を受賞し、さらにドイツデザイン賞※4という、世界中のデザイン賞受賞作から選ばれる賞でも金賞に選ばれました。
デザイナーはヨーロッパでも有名なジャスパー・モリソン氏※5ですが、それ自体は何も珍しいことではありません。そこに日本の「うすはり(極薄吹きガラス)」職人の技術が高水準なかたちで加わったことで、世界が驚くものができてしまいました。グラスそのものは何の変哲もないシルエットですが、一流のデザイナーと一流の職人がコラボレートした、というストーリーも含め、デザインと技術が最高のかたちで融合できたことが、結果的に世界中でも認められたのだと思います。
今回の共同研究も、そのような結果を目指せればと考えています。(プロデューサー 安東孝一氏)

2時間あまりのミーティングは、学術的な視点とはまた違った、商品をつくる上での発想や消費者に対する視点、知財の扱いに至るまで話題にのぼり、共同研究の視野を広げるものとなりました。

※4 ドイツデザイン賞
2002年より始まった、ドイツ連邦経済技術省により贈られる賞。ノミネートの条件はドイツ国内もしくは国際的な賞を受賞していること。世界のデザイン賞で最も権威ある賞とされ、審査も厳しい「賞の中の賞」とされる。
※5 ジャスパー・モリソン
1959年生まれ、英国出身のプロダクトデザイナー。ロンドン王立芸術学院を卒業後、ドイツのベルリンでデザインを学ぶ。1986年デザイン事務所Office for Desing設立。日本の無印良品やマルニ木工とも協働している。