すまいみらい研究所 DNP

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ホーム みんなで考えるみらいのすまい 東京大学千葉研究室 共同研究 第5回 ミーティング

田中誠一、深田晶子(DNPすまいみらい研究所)
千葉学、成瀬友梨、海法圭、落合瞳子、千葉学研究室所属の学生の皆さん
(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室)
プロデューサー:安東孝一(アンドーギャラリー)
エディトリアルスーパーバイザー:寺松康裕(建築編集研究所)
ゲスト:山田浩之(大日本印刷ABセンター スマートシティ推進室)
星享(大日本印刷 住空間マテリアル事業部)

10月21日、DNPすまいみらい研究所と東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室の共同研究第5回ミーティングが、東京大学本郷キャンパスで行われました。今回は大日本印刷ABセンターのスマートシティ推進室から1名、大日本印刷の住空間マテリアル事業部から1名がゲストとして参加しました。

まず千葉学研究室が9月中旬に行った北陸地方への研究旅行についての発表から、ミーティングは始まりました。

北陸地方における建具の事例から

研究旅行の発表では「すむしこ(簀虫籠)」(富山市東岩瀬)、「間垣」(輪島市上大沢町/大沢町)、「きむすこ(木虫籠)」(金沢市主計町茶屋街/ひがし茶屋街)、「腰高障子」(岐阜県白川村)、「背戸」(白山市白峰)の5つの建具が取り上げられました。
それぞれがその地の気候風土や文化風土に根ざした機能や意匠を持っています。

「すむしこ」は細く切った竹を横格子に組んだ建具です。東岩瀬は北前船※1の寄港地として栄え、「すむしこ」は明治初期の大火から再建された屋敷に多く用いられました。横格子の制作は技術的な難易度が高く、廻船問屋の富の象徴としての意味も持っていました。

「きむすこ」は外側が広く内側が狭い台形の断面をした縦材を並べた縦格子です。ベンガラ※2塗りであることが多く、弁柄格子と呼ばれることもあります。縦格子の「きむすこ」は視線を遮る機能に優れ、さらに台形の断面をしていることで外から中が見えにくく、逆に内側からは外がよく見えます。見た目の美しさとプライバシー確保の機能を両立させた建具です。

「間垣」は高さ3mから5mの細い竹を並べてつくった垣根で、強風や雪、塩害から家屋を守る機能があります。いくつかの区画に分かれている大沢町では各個別に「間垣」がつくられ、大沢町に比べて小さく、ひとつの区画しかない上大沢町は集落全体をひとつの「間垣」で囲っています。毎年秋の補修作業には人手がかかるため、コミュニティの維持にも一役買っています。

※1 北前船
江戸時代から明治時代にかけて、北海道や日本海側の都市から関門海峡を抜け、大阪に向かうルートを通っていた物流船。北前船は船主が荷主を兼ねる「買積制」を取り、寄港した先々で積荷を商売しながら航行した。「一航海で千両稼ぐ」と言われ、廻船問屋は巨万の富を築いた。
※2 ベンガラ(弁柄)
酸化鉄を用いた赤色顔料。江戸時代にインドのベンガル地方で採れるものを主に輸入していたことからこの名で呼ばれるようになった。

「腰高障子」は白川郷の合掌造り家屋でよく見られます。白川郷は養蚕業が主な産業で、豪雪地帯でもあるため、外光を取り入れつつ雪に耐えるため、風雨にさらされる障子の下部を板張りにした「腰高障子」が用いられました。

「背戸」は家屋の2階につくられた扉です。白峰は豪雪地帯ですが家が建て込んでいるため、除雪した雪を捨てるスペースがありません。そこで2階から出入りをしたり、暖房用の薪を搬入するための「背戸」がつくられるようになりました。

どの建具も生活環境や社会環境の変化で、だんだんとその数が減っています。それに伴い、製作できる職人もいなくなり、維持や新調が難しくなってきているという現実も紹介されました。

発表のまとめとして、千葉教授からコメントがありました。

──個人的には「間垣」が素晴らしいと思いました。竹は先に行くに従って細くなっていきますよね。その効果を見事に利用しているのがわかります。下の部分は風を適度に遮り、先の方はしなることで風のエネルギーを吸収しています。これは自然素材だからこそ得られた機能だと思います。「きむすこ」も優れた機能を持つ建具ですが、断面形状を決定してしまえば、工業的に品質を管理して生産することができます。しかし「間垣」のようなものは難しいと思います。(千葉学教授)

建具で空間をコントロールする事例

学生の発表に続き、千葉教授が最近設計した事例から、建具や境界に関する例が紹介されました。まず紹介されたのは鍼灸整骨院の事例※3です。
外部に面した開口部に、アルミハニカムパネル※4をガラスでサンドした建具が使用されています。アルミハニカムパネルは細かい六角形の穴が空いた面を持ち、かつ厚みがあるので、視点が正面にある部分以外は素通しで見ることができません。その視覚的効果を利用し、プライバシーを確保しつつ外部の気配が感じられる境界面をつくり出しています。

続いて飲食店舗(しゃぶしゃぶ店)が2例※5紹介されました。両店舗とも各席を区切る間仕切りに、アルミハニカムパネルを用いた建具と、3種類の銀色の和紙を用いた建具を使用しています。

※3
「FUGA(長嶋鍼灸整骨院 風雅)」(2012年/和歌山県)
※4 アルミハニカムパネル
無数の六角形がハチの巣状に集まった構造をしているアルミ製のパネルで、軽量かつ高強度なのが特徴。様々な厚さ、目のサイズのものがあり、主に家具や航空機の外板などの心材に用いられる。
※5
「瓢斗 京都店」(2015年/京都市)、 「瓢喜 香水亭 京橋店」(2015年/東京都)

──落ち着いて食事をするお店なので、それぞれの席は独立性があった方が良いと思うのですが、各席の視線はぶつからないようにしながら、お店全体としての雰囲気を感じられるものが良いと考えました。アルミハニカムパネルを使ったスクリーンと3種類の銀色の和紙を使ったスクリーンを使っています。それぞれの素材の効果で視線を操作し、お互いが見えて見えなくて、ということでやっています。サービスでは客のプライバシーをあまり邪魔せずに、食事の進み具合を確認出来ることも求められるので、そういう場合にもハニカムは有効です。
いくつかの素材を小さな単位で使うことで画一的にならず、全体に柔らかく包まれた空間にしたいという意図もありました。もう少し現実的な問題で、店舗が汚れたり傷ついたときに部分的な補修で対応できるというメリットがあります。部分的に補修をしたり、いろいろな事情で素材を変える必要がでてきても、全体像は変わらないっていう狙いもあって、ある種の更新のシステムみたいなことも考えています。(千葉学教授)