すまいみらい研究所 DNP

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ホーム みんなで考えるみらいのすまい 東京大学千葉研究室 共同研究 第6回 ミーティング

田中誠一、深田晶子(DNPすまいみらい研究所)
千葉学、成瀬友梨、海法圭、落合瞳子、千葉学研究室所属の学生の皆さん
(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室)
プロデューサー:安東孝一(アンドーギャラリー)
エディトリアルスーパーバイザー:寺松康裕(建築編集研究所)
ゲスト:近松惠吉、安齋英弘(DNP住空間マテリアル デザイン開発部)

秋深まる11月27日、DNPすまいみらい研究所と東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室の共同研究第6回ミーティングが、東京大学本郷キャンパスで行われました。
今回はDNP住空間マテリアルのデザイン開発部から、第3回、第4回のミーティングにも出席した近松氏と安齋氏の2名がゲストとして参加しました。

団地再生の事例から

ミーティングは「団地再生」の事例調査について、学生の発表からはじまりました。

UR都市再生機構(以下UR)※1や自治体、民間のディベロッパーなどによって日本各地に建設された住宅団地は、建設後40年から50年が経過し、設備の老朽化や生活スタイルの変化への対応の難しさから、空室の割合が高まってきています。そのような現状を打破し、団地を活性化するために、全国でさまざまな試みが行われています。発表ではその事例について、いくつか紹介されました。

「洋光台団地」(横浜市磯子区)では「団地の未来プロジェクト」と銘打ち、団地をブランディングの観点から再生する試みが行われています。ここでは広報戦略のほか、広場を改修することで共用部の価値を向上させる取り組みがなされています。「高島平団地」(東京都板橋区)では「MUJI×UR」として、ライフスタイルを標榜する企業とのコラボレーションを通じ、従来の画一的な間取りのあり方を変える取り組みが行わています。同じような事例はいくつかの団地で展開されている「IKEA×UR」などでも見ることができます。
「狭山フラット」(埼玉県狭山市)や「花畑団地」(東京都足立区)では、引き算のリノベーションや減築、木製建具の利用といった手法で、住まいそのものの魅力を向上させる試みがなされ、「富士見団地」(東京都国立市)では、原状回復の原則そのものを変更し、住まい手がDIY※2で自由に住みたい場所をつくれるようにするなど、画一性から脱却した団地のあり方を探る試みがなされています。
そのほかにも「福祉楽団 地域ケアよしかわ」(埼玉県吉川市)における、団地の一角を高齢者施設に転用することで世代間のコミュニケーションを発生させる試みや、不動産紹介サイト「東京R不動産」※3やリノベーション支援サービス「toolbox」※4と提携した、大阪市住宅供給公社の「カスタマイズ賃貸プロジェクト」などの事例が紹介されました。

※1 UR都市再生機構(独立行政法人都市再生機構)
2004年に住宅都市整備公団と地域振興整備公団が合併して誕生した独立行政法人。大都市や地方中心都市における市街地の整備改善と、賃貸住宅の供給支援をする。
※2 DIY
Do It Yourself の略。専門業者ではない人間が、自分で何かをつくったり、修理したりすることを指す。
※3 東京R不動産
不動産情報を独自に取材・編集し、間取りや賃料といった通常の情報では見えてこない物件の魅力を紹介する不動産紹介サイト。大阪や金沢などにも展開している。
※4 toolbox
「自分の空間を編集していくための“道具箱”と銘打ち、内装建材から設備、家具・小物等まで取り扱うwebストアと、空間づくりの事例集を紹介したコンテンツからなる。東京R不動産と連携している。

住まうことと「建具」

「団地再生」の事例紹介の後、学生が考案した「建具」がいくつか発表されました。住宅のなかで天井という「境界」に注目した提案や、細かいモジュールの組合せで空間のバリエーションを獲得する「建具」、布などを用いて緩く空間を仕切る提案や香りのする襖など、提案は「建具」単体に留まらず、住まう空間のあり方に着目したものまで広がりのあるものとなりました。

ひととおりの発表後、いくつか感想が出されました。

──われわれの生活スタイルがとても多様化しているなかで、「建具」のあり方が変わっているのかというと、1970年代頃からほとんど変わっていないんですね。一方で住宅の購入者層は、以前は40代・50代が中心だったものが、20代・30代の方がとても増えているので、そうなると住宅そのものも変わるし、建具や床も変わっていくので、何か新しい提案ができればと考えています。(DNP 近松惠吉氏)

──「団地再生」はかなり長い間課題になっていて、いろいろな試みはあるのですが、皆が共有・共感できる大きな流れがあるというわけでもないというのが、実情のような気がします。共同研究では「建具」というとても面白いテーマを取り上げていますので、「建具」に絞り込むと、新しい提案が見えてくるかも知れません。(エディトリアルスーパーバイザー 寺松康裕氏)

──「団地再生」の事例にあった東京R不動産の「toolbox」の話を聞いて、賃貸住宅に住まう人が、自分で考えてつくることを支援するシステムがあるということは、とても可能性があるように思います。
借りる人が、都心でお仕着せのマンションに住むのと同じ金額で、少し郊外になるかもしれないけれど、広い部屋で、自分で自由に設計できるという話はとても魅力的だと思います。そこに「建具」を通じて、「×団地」でも「×住居」でもいいのですが、何かわれわれが新しい回答を提示できればいいな、と感じています。(プロデューサー安東孝一氏)

リノベーションの事例を見ていくと、そこからどんなことが読み取れるのでしょうか。

──例えば新築されたときにはとても丁寧に貼られていた壁紙を、リノベーションをするときは必ずと言っていいほど剥がしてしまいます。そこには「壁」という「表層」に今の人びとが何を求めているのかが象徴的に表れているように感じます。それは素のままの壁面に表れてくる時間の痕跡だったり、自分の手で空間をある程度いじれる自由さだったり、そういうものかも知れません。
同じように「建具」的な観点で見ると、最近は家の外も含めて生活空間であると捉えて、中と外の境界をどれだけ揺らぎのあるものにしていくか、ということが大きなテーマになっているように思います。
少し話は外れますが、バング&オルフセン※5のオーディオのように、かつてはインテリアとして置いておきたいと思ったものが、その存在を消そうとするという方向に向かっていて、例えば操作パネルや画面は壁に、スピーカーは天井になろうとしている、みたいな話もあって、そうすると家のさまざまな「表層」が、生活に求められる機能と一体化したものになってくるような方向性はあると思います。「建具」も単なる境界面としてではなく、それ自体が高い環境制御の性能を持つことで、室内環境をコントロールできるような可能性があるのではないでしょうか。(千葉学教授)

──団地をDIYでリノベーションをするときに使いたくなるような、「建具」を考える方向でやってみると、何か面白いことが見えてくるかも知れません。それこそ「toolbox」のラインナップに加わるようなものだとか。(成瀬友梨助教)

──団地再生の現場に参画していると、どうしてもコミュニティやICT※6みたいな話に終始してしまって、個別の設計は建築家の方を呼んで、ハードの細かな部分は現場で何とかしてもらう、ということになりがちなので、きちんと議論されていない部分があります。そこを掘り起こしたら、とても広がりが出てくるのではないでしょうか。まだまだ可能性はあるし、たとえば新築・中古に関わらず賃貸アパートみたいなものに展開しても面白いですね。(DNP田中誠一氏)

※5 バング&オルフセン
1925年創業のデンマークの映像・音響機器メーカー。デザイン性が高く評価されている。
※6 ICT
Information and Communication Technologyの略。情報通信技術という意味で、IT(情報技術)とほぼ同義。近年ではITに変わる語として、ICTの方が用いられている。