すまいみらい研究所 DNP

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ホーム みんなで考えるみらいのすまい 東京大学千葉研究室 共同研究 第7回 ミーティング

田中誠一、廣部功、深田晶子(DNPすまいみらい研究所)
千葉学、成瀬友梨、海法圭、落合瞳子、田中義之、千葉学研究室所属の学生の皆さん
(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室)
プロデューサー:安東孝一(アンドーギャラリー)
エディトリアルスーパーバイザー:寺松康裕(建築編集研究所)
ゲスト: 近松惠吉、安齋英弘(DNP住空間マテリアル デザイン開発部)
松村繁弘、山田浩之(大日本印刷ABセンター スマートシティ推進室)
横田孝子(大日本印刷ABセンター ソーシャルイノベーション研究所

「快適性」と「住まい方」

一口に「快適性」と言っても、その言葉の捉え方はさまざまです。発表されたアイデアでも、さまざまな「快適性」の解釈を提示していました。それは発案した人それぞれの「こういうものが欲しい」という理想が反映されているからかも知れません。

──今回の提案ではどういう家が快適か、あるいは家に何を求めるのか、そういうことを最初にイメージして欲しいと考えていました。
プライバシーとパブリックとの関係をどう調整するかという話は、これまでの議論で見えてきた大きなテーマだと思うので、それについて具体的な提案が出ていたことはとても良かったと思います。その一方で、それは普遍的すぎるテーマで、過去さまざまな議論が重ねられてきたものでもあります。その先に何があるのを、もう少し見てみたいという気もします。
建築という動かないものの中で「建具」は動くことによって、例えば身体に対する洋服のように、体感に合わせて脱ぎ着するような機能があると思います。そこでいろいろとできるかも知れません。
そこには他の「動かない部分」の性能も絡んでくるのではないでしょうか。例えば光であれば、壁や天井の明るさはどうなのかというように、表面に求めている性能もどんどん高まっていいます。光源ではなく反射面の問題です。そういうことと組み合わせていくと、さらに面白い展開があるように思います。(千葉学教授)

──そうすると平面計画などにも関わってくるような、提案になるのかも知れません。(成瀬友梨助教)

住まい方の未来像については、学生の皆さんからもさまざまな発言がありました。
クラウドコンピューティング※2の発達を利用し、近所付き合いのようなコミュニケーションを、より広く拡張していく未来像が提示されたり、持ち物を極限まで少なくして、都市における個人の居場所を分散させ、よりコミュニケーションが活性していく未来像も挙げられました。
一方で建築家が想定した「住まい方」が、特に低所得層の住まい方とかけ離れてしまっている状況への視点も投げかけられ、社会問題への解答として「建具」のデザインも考えていくべきだという意見も出されました。

※2 クラウドコンピューティング
ネットワークをベースとしたコンピュータの利用形態。ソフトウェアや蓄積されたデータは、コンピュータやスマートフォン等のユーザー所有の端末ではなく、サービス提供者が所有するサーバーで運用する。

パーソナルスペースと住まい方

オフィスの形式では「フリーアドレス」※3という働き方が生まれ、ある程度定着しています。そうしたスタイルの多様性を「住まい方」でも探っていく必要がありそうです。その時に問題になるのが「パーソナルスペース」の確保。現在では核家族化も進み、ひとりに1部屋という考え方が一般的になっています。近年増えているシェアハウスでも、共有するリビングやキッチンとは別に、パーソナルスペースとして各住人に個室が割り当てられることが一般的です。

──例えばモンゴルでゲル※4に住んでいる人びとは、家の中に仕切りが無いので、ひとりになりたいときは外に出るそうです。土地が広いので、外にいる方が誰とも会わないということらしいですね。(海法圭 講師)

※3 フリーアドレス
従業員が固定した自席をもたないオフィスの形式。従業員は空いている席を自由に使い、業務を行う。資料等は別途割り当てられたキャビネット等で管理し、個人の道具は移動可能なワゴン等に保管する。
※4 ゲル
モンゴル高原に住む遊牧民の移動式住居。中国語では包(パオ)と呼ばれる。

──100㎡あってもワンルームで住みたいみたいな話ってありますよね。個人的にも狭くてもいいからワンルームで、自分の理想とする空間で、最小限の「もの」だけに囲まれて生活できたら理想です。それはひとりで住むなら可能だと思うんです。でも同居人がひとりでも登場すると、価値感が異なるので調整が大変で、仕切りも「もの」もどんどん増えてしまいます。(プロデューサー 安東孝一氏)

「人」と「人」の関係性を考えると同時に、「人」と「もの」の関係も、住まい方には重要な要素であることが浮かび上がってきました。ドイツの写真家ピーター・メンツェル氏の写真集『地球家族─世界30か国のふつうの暮らし』※5で、最も所持品の多いのは日本の家だったようです。

──「もの」で溢れている家の話はよく耳にしますが、その「もの」は本人にとっては「大切なもの」で、恐らくそれは「メモリー」なんだと思うんです。そうすると、捨てられない人はどんどん「もの」が増えてしまいます。住空間とは直接関係ないかも知れませんが、大きな問題だと思います。(プロデューサー 安東孝一氏)

──日本特有の現象かどうか分かりませんが、自分のアイデンティティが「もの」に支えられているという側面って、かなりあると思います。
例えば本が好きな人は本に囲まれて生活をしていることが、そのままアイデンティティになったりします。どんな「もの」を買うか、あるいは持つかということが、アイデンティティと切り離せなくなっている部分もかなりあるのではないでしょうか。
それは家の問題にも繋がってきて、自分がどういう家を買うかということが、そのままアイデンティティでもあるから、意外と根が深い問題だと考えています。(千葉学教授)

「建具」をベースに住まいを考えてきた共同研究は、「人」と「人」の関係のみならず、「人」と「もの」の関係にまで視野が広がりました。学生の提案もリアリティを増し、1年目のまとめに向け、収束と拡散の両方で大きな前進のあったミーティングとなりました。

※5  『地球家族─世界30か国のふつうの暮らし』
1994年に出版された、写真家ピーター・メンツェル氏による写真集。世界30カ国の「中流」と呼ばれる家庭を対象に、自宅の前に所有物一式を集めて撮影している。日本ではTOTO出版から刊行されている。